院生の穴蔵

院生の穴蔵。哲学/倫理学セミナー http://pe-seminar.hp.infoseek.co.jp/

2008-07

【文庫集成】リッケルト・その弐

 「なんかでかいこと言ってたけど、やっぱり企画倒れで終わったジャン」との陰口が身にしみる新企画、「文庫集成・新カント学派とその周辺」、意地の第九回目です。久しぶりの今回は、ちょっとマニアックなこれを。

 リッケルト『リッケルト論文集』改造社出版訳、改造文庫

 新カント学派の哲学者・リッケルトの論文集です。訳者は不明ですが(どこを探しても表記なし)、おそらく改造文庫の編集部か、その周辺の人間、あるいは委託を受けた方が訳出したものと思われます。ゲーテ、フィヒテ、ヘーゲルなど、十九世紀前半ドイツの重要な思想家を論じた諸論文を集めた本書では、カントのいわゆる「実践理性の優位」をひとつの視座としてこの時期のドイツ精神史における、活動、実践、社会などの論点を、リッケルト独自の価値哲学の視点なども交えつつ検討していきます。なおリッケルトにつきましては、当ブログの記事「【文庫集成】リッケルト・その零」や、そこで言及している参考図書などを参照していただければ幸いです。

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 いや、ご無沙汰になってしまいました、リッケルト。いろいろあって、情熱を失いかけたりして、中断してしたのですが、まあ私は男の子ですから、初志貫徹しないといかんので、ちょぼちょぼ続けていきたいと思います。んで、リッケルトの邦訳で読めるもののうち、前回の『文化科学と自然科学』、それに次回の予定の『認識の対象』、それとこれは文庫ではない『現代文化の哲人カント』、このあたりはさすがに、私の専門がカントということもあって、まあ買って読むのですが、この『論文集』は初読でした。これも前から存在は知っていたのですが、なかなか古本屋で改造文庫までチェックする習慣がないので、探して買い求めたのは、確かこの企画をはじめてからだったと思います。ちょっと「文庫集成」というミーハーなこの企画にしては、入手するのが面倒なものなので、紹介するには気が引けるのですけどね。

 さて本書ですが、うーん、ラインナップを見てみると、でもやっぱり、貴重なのかなあ。やっぱりリッケルトの翻訳は、カント関係と価値哲学に偏っているのですが、日本語で、リッケルトのゲーテ論やフィヒテ論が読めちゃうので。ただやっぱり、これは時代が時代だし、出版形態が出版形態なので、仕方がなくて、基本は翻訳で読んで済ませようとする私が悪いのですが、やっぱり翻訳は限界があるかな。やっぱり訳者の名前がないと、責任の所在もあいまいになるわけで、その分翻訳の信用度には懐疑的にならざるをえないし、さらにフィヒテがイフヒテ(!)になっていたり、「即ち、、此の命題には・・・」なんて句読点が重複している箇所があったり(これは私のブログでもよくあるから、ひとさまのことは言えないのですけど)で、ちょっと出版前のチェックもずさんなのかなあ、と。まあ使えそうな論文があったら、探してドイツ語で読むかいな、という位置づけになるのでしょうけど。

 それで、初回の記事でリッケルトは文化的な環境の出身だったとか書いて、ちょっと自分でも書いていて「ホンマかいな」というところがあったののですが(参考図書にそうあったのだから仕方がない)、私の中ではその試金石が巻頭の「ゲエテのファウストと独逸浪漫主義」でした。これはタイトルからしてちょっと眉つばものだし、途中からドイツ人のお家芸の「カントとゲーテ」とかってことになって、「ああ、これは、やっぱりちょっと・・・」と思ったのですが、結論だけ書くと、恥ずかしながら結局、「ああ、なるほど」などと思ってしまいました。基本的な流れとしては、カントによる観想/実践の秩序の転覆と、その流れのなかでのフィヒテのTatなどを概観し、その精神史的な状況を踏まえたうえで、『ファウスト』へ、という論文になっています。まあさすがにメフィストテレスにそそのかされるくだりなどは、「そんな、強引な」と思いましたけど(『生きる』の志村喬も、Tatの哲学者なのかな?)、えー、でも、ファウストが「とまえ、お前はいかにも美しい」って、なんでよりによってあの場面で言ったのか、これを読んではじめてすっと分かったような気がしたなあ。これって常識なのかなあ?それとも私の読解力がなかっただけ?まあ『ファウスト』は読み通すのに骨が折れるので、終盤はもうだれだれになっているから、読みとばしてしまっただけなのかもしれないですけど、でも私は、これを読まなければ、あのファウストの冒険の終点の意味は、いまも分からずじまいだったなあ。この点、紹介するのは面倒なので、知りたい方は、さがして読んでくださいね。

 あとフィヒテ関係のものも、一本一本はそりゃちょっとパンチが弱いけど、ここに入っている三本(「フィヒテの社会主義の哲学的基礎」「フィヒテの哲学に於ける倫理的個性主義と経済的社会主義」「如何にして国家学は学として可能なるか」)読み通すと、いろいろ見えてくる。まあ例えば「カントとマルクス」、これも一時期のドイツ人のお家芸で、それに比べると「フィヒテと社会主義」って意外な取り合わせにも見えるかと思いますが、まあなるほどね、という感じ。あまり自分で掘り下げてみたいとは思わないけど、きちんと理屈の通ったおはなしにはなってますからね。それとやはり、フィヒテと新カント学派というと、リッケルトの弟子のラスクの『フィヒテの観念論と歴史哲学』が有名ですけど、このあたりの流れも見えてきたし。やっぱり新カント学派って、コーヘンなんかとくにですけど、全般的にもフィヒテへの親近性を持っていて、やっぱりそのフィヒテのなかでも、とくに社会論や経済論、国家論などは、魅力的なテーマだったのでしょうね。まあ新「カント」学派なわけですから、フィヒテへの親近性は当然なのですが、でもフィヒテや新カント学派的なものを引き算して、それもカント自身に残る、哲学的に魅力的な要素ってなにかな・・・なんて考えてみたりみなかったり。実は問題が意味をなさないほど、たくさんある、というのが答えだったりするのかもしれませんけど。

 あとは「近代の科学と希臘の哲学」「学術の生命」の二本がありますけど、これらはいいでしょう、今日はこんなところで。興味をもたれたかたは手にとって・・・とは気軽にはいえないですけど、大きな古本屋を隅々まで探せば一冊ぐらいはあるはずです。そこまでの情熱をお持ちのかたは、ぜひどうぞ。

テーマ:哲学/倫理学 - ジャンル:学問・文化・芸術

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