院生の穴蔵

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2008-07

【文庫集成】ヴィンデルバント・その伍

 少しでも間があくと「打ち切りか」との噂が広まる「文庫集成 新カント学派とその周辺」、第五回目です。『プレルディエン』編もひとまず片付き(それでいいのですよね?)、新たな展開を迎える今回は、次のものをご紹介。

 ヴィンデルバント『哲学概論 第一部』速水敬二・高桑純夫・山本光雄訳、岩波文庫

 ヴィンデルバントの主著『哲学概論』の翻訳、第一巻目です。本巻には二部構成となるヴィンデルバントの哲学体系のうち、「存在問題」「生成問題」「認識問題」の三つの理論哲学的な主要問題よりなる、第一部「理論の諸問題(知識問題)」が収録され、「歴史的報告」や「或一定の学説の証明」を与えるのではなく、むしろ読者を「哲学することそのものへ、反省の生きた労作へ」(p28)誘います。新カント学派に関心を寄せる読者はもとより、現時点での我が国の和辻哲郎『倫理学』の代表的な解説者である、金子武蔵(岩波版和辻全集第十一巻「解説」)・吉澤伝三郎(『和辻哲郎の面目』)・熊野純彦(岩波文庫版『倫理学』解説)の各氏が揃って指摘されているように、和辻『倫理学』の体系構成に大きな影響を与えた本書は、近代日本思想に関心を寄せる全読者人にとっても必読の一冊であります。なお、ヴィンデルバントにつきましては、この企画の第一回の記事や、そこで言及されている参考図書等をご参考にしていただければ幸いです。

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 いやー、苦節一ヶ月半、ようやく『哲学概論』にまでたどり着きましたね、この企画。まだようやく『プレルディエン』系の薄っぺらい文庫の紹介が終わった段階で、感慨にひたるには早いのですけど。これ、みなさまご存じのように、実は玉川大学出版部によるハードカヴァーでの翻訳(清水清訳)もあって、私は確か、こっちを先に買ったのだと思いますが、さすがにハードカヴァーで『哲学概論』って重々しいタイトルの本だと、ちょっとなかなか読む気がしないんですよねえ。まあ和辻がらみでみなさま気になるのはむしろ、第二部のほうだと思いますけど、ひとまず今日は第一部の記事で、お付き合いくださいませ。

さて、内容ですが、うーん、評価が難しい。いや、ちょっと安心した部分はあるのですけどね、本書を読んで。やっぱりこのかた、アカデミズム内部の<哲学教授>という印象が一般に強いと思うのですが、でも例えば、これは『精神現象学』を意識しつつの「人間の思索が素朴な世界観や人生観から、そこに含まれた矛盾を通じて哲学の立場へ駆り立てられる場合の必然性を指示せねばならぬ」(p29)という哲学の課題に対する理解とか、本質と現象の区別に関連しての、「上の区別は、我々が我々が眼で見た世界並びに人生の姿には満足し得ないこと、従ってその姿が元来何を意味するか、その背後には何が潜んでいるかを知らんがために、まさしくその背後に行かんと欲するものであることを意味する」(p40)という哲学の欲求に対する共感とかは、やはりちゃんとあるわけです。でも、だったらなんだよ、第一部第二節「生成問題」の退屈さは・・・でもまあ、訳文がさすがに古いですから(速水氏は私はよく知らないものの、高桑・山本の両氏は、名訳者だとは思いますけどね)、このあたり、山本義隆という現代の名訳者を得たカッシーラーとは同列に論じられないこともあり、同情の余地はあるのですけど。誰か新しく訳してあげれば、あるいはヴィンデルバント・ルネサンスも・・・・など思ったりしますが、私は嫌ですよ、絶対に。

 でもやっぱり興味深いのは、結局何が言いたいのかよく分からなかった第二部の先にある、第三部「認識問題」かな。これじゃ、従来の新カント学派像に、なんの新たな視角も付け加えていないですけど。まあとくに興味深いのは、第九節「真理」のはじめのほう。ヘーゲルによるカントの認識論に対する、いわゆる<畳上の水練>の批判を取り上げ、そしてタブラ・ラサを想定しそこから認識論を始めることを、「けれども認識論がそのように企てることは勿論不可能である、けだしいずれの思想も他の思想との関係を以て貫かれているから」(p215)なんて理解を示し、そして平凡なカント擁護論を退けるあたりでは、「おっ」と思ったのですが、でも、そこからがやっぱりヴィンデルバントなんだよなあ。結局、認識の生理学と、「普遍妥当性及び規範的必然性」を要求する<学>や<科学>の権利問題を検討する理論哲学の二分法へ、そしておなじみの「現実と価値の基本的対立、存在とその評価の規範との関係」へと論は進んでいくのですが、うーん、やっぱりこの図式では問われないままに通り過ぎられてしまっている問題領域が、それもことがらとしても重要だし、たぶんカントにおいても重要な問題(『純粋理性批判』のよく知られている箇所だけでなく、全体を見れば)であったように思うのですけどね。つまり、学に至る手前の<知>や<真>の成り立ちにも、<認識の生理学>では解決しきれない問題域があって、そこにこそ哲学固有の課題があるのではないか・・・まあこのあたり、ちょうど本業のほうの論文を用意している問題でもありますし、「論文を書いたらいいのでは」というアドヴァイスもいただきましたので、グダグダ文句ばっかり言っていないで、ちゃんと自分でも結果にしていきたいと思います。

 第二部は、また後日。第二部を紹介したら、ヴィンデルバントは一回中断して(このひとまだたくさんあるから、マンネリになっても困るし、ほかに緊急度の高いものもありますので)、新シリーズに入りたいと思います。「このひと取り上げてくれたまえ、ちみ」等の要望ございましたら、ぜひコメントいただければと思います。

テーマ:哲学/倫理学 - ジャンル:学問・文化・芸術

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